frat.jpフォーラム

吉見直人が主宰するフォーラム
現在時刻 - 2017年12月18日(月) 16:09

All times are UTC + 9 hours




新しいトピックを投稿する トピックへ返信する  [ 2 件の記事 ] 
作成者 メッセージ
 記事の件名: 嘘っぱちの通説
投稿記事Posted: 2016年1月01日(金) 12:52 
オフライン
管理人

登録日時: 2014年7月25日(金) 11:06
記事: 72
昭和40年生まれの僕には、当然ながら、戦争体験はない。

かつて日本がアメリカと戦争をしていたこと、そして、ボロ負けの結果で終わったことを、僕自身がいつ知ったのか、その記憶はまったくはっきりしないのだが、母が空襲に遭った体験を語って聞かせてくれたこと、あたりだったかもしれない。おそらくその後、徐々に、さまざまな機会で、いわゆる太平洋戦争についての情報がインプットされ、それが僕自身の歴史理解のベースとなったとともに、僕自身のアイデンティティの根源的な部分を形作ったのだと思う。
「かつてアメリカと戦争をして負けた国で生まれ育った」という認識は、変えようのない絶対的なもので、おそらく僕のアイデンティティは、その認識に強く支配されている。
という意味において、自国の歴史認識は僕らにとって、とても重要なものだと思う。

ところが、あたかも自明だと思われていた、その歴史認識をつぶさに検証していくと、作為の有無はともかく、いろいろな「嘘」が存在していることがわかる。

わかりやすいのは、幾多の「英雄物語」である。

昭和20年8月の日本の終戦をめぐり、最も知られたドラマは、映画「日本のいちばん長い日」だろう。昨夏、リメイク版が上映され、観た人も多かったと思う。原作の『日本のいちばん長い日』(半藤一利)がノンフィクションとされていることから、映画で描かれた物語を歴史的事実と思い込んでいる人もいると思うが、あれは、大河ドラマなどと同様、事実にある程度基づいてはいるものの、たんなるドラマである。これについては、拙著『終戦史』(2013年、NHK出版)のp10~で書いているので、詳しくはそちらを参照していただきたいのだが、歴史に関しては、こうした「英雄作り話」が、実に多い。

元海軍軍人の高木惣吉は戦後、このように書いている。

引用:
「わたくし達はこれ迄のように人も、事実も、条件も皆これをロマンチシズムの甘い糖衣に包まなければうけ容れられないようでは、いつ迄たっても同じ過誤をくり返す危険があると思う。その点で従来のわが国史には忠臣、名将、勇士が氾濫して大挙、善行の宝庫のようにまげられて過誤や、卑怯や、豫察の愚劣等による失敗、紛糾は或は全く削り或はこれを薄めてしまった傾があります。〔略〕われわれ日本民族の毀誉さまざまの過去も、これは決して眼を閉じて甘い感傷に耽るよりも、勇敢にその真実を省み批判することが今後の再建、歴史的価値創造に役立つものと考えられるのであります。」(拙著『終戦史』p340)


事実を直視することから逃げ、安直なフィクションに逃避し、自慰行為にふけっているかぎり、僕らは前には進めない。それどころか、気がついたら後退してしまい、過去に辿った過ちをまた再現してしまう、なんてことにも、なりかねない。
といった意味で、「これはドラマですから」と言い訳をしながら、こうしたフィクションを乱造乱発、「通説」を接着剤で塗り固めるがごときを平気な顔でやっていることは、無自覚無責任の極み、と、厳しく断罪されなければならない。

また、歴史の枠を先に規定してしまうこと、さらに言えば、「歴史を断罪する枠」を先に規定してしまい、批難の矛先、その照準を合わせた上で、概説書的に歴史を語ることも、歴史に向かう姿勢として、批判されなければならないと思う。

具体的にいえば、「軍部=悪」というフレーム設定である。多くの日本人がそう思っているが、それは単なる思い込みにすぎない。しかもそれは、勘違いとかではなく、戦後、日本とアメリカの共同作業によって、意識的に作られたものだ。という、戦後の「洗脳操作」を知ってか知らずか、いまだに、「軍部=悪」という強固なフレーム設定のもとに、言説を繰り広げる言論人が存在する。
受け手の多くがそう思い込み、歴史認識の前提条件としていることを共通理解として繰り広げる言論は、わかりやすいし、支持も得られやすい。
が、はたしてそれで良いのか。
商売にも倫理は必要だろうし、歴史認識という公共財産を私物化してはならない。

僕は、先入観や、イデオロギーで、歴史の枠をあらかじめ規定するようなことは、しないようにしている。もしかしたら無意識のうちに、しているところもあるかもしれないが、できるだけ排除し、プレーンに歴史を見ているつもりだ。

過去の言説をなぞらない。
歴史を都合よく改竄しない。

ということを、2016年元旦、改めて、肝に銘じたいと思います。


ページトップ
 プロフィール  
 
 記事の件名: 偽善的な通説
投稿記事Posted: 2016年1月31日(日) 10:04 
オフライン
管理人

登録日時: 2014年7月25日(金) 11:06
記事: 72
「軍部=悪」について補足。

ぼくは決して、「軍部は悪くなかった」と言っているのではない。
「悪かったのは軍部だ」という通説を批判している。
「軍部」と「悪」を等号で結ぶことを批判している。

「悪かったのは軍部だ」という通説には、「悪かったのは私たちではなく」が内包されている。「私たちは悪くない、むしろ被害者だ、補給の途絶えた前線で飢えたり、玉砕や特攻で若い命を散らしたり、空襲で家を焼かれたり、原爆の後遺症で苦しんだり、大陸で逃げまどったり孤児となったり、軍部のせいでひどい目に遭ったのだ」と。

多くの人々がひどい目に遭ったのは確かだ。だが、はたして本当に、私たちは悪くないのか。ただ軍部だけが悪かったのか。

以下、元陸軍軍人、1941年の開戦時は企画院総裁だった鈴木貞一の戦後証言、僕の手元にあったその抜粋メモから。
(彼が戦後語った証言は多数存在し、その内容の真偽は慎重に吟味する必要があるし、そもそも鈴木貞一自身があまり評判の良くない人物ではあるが、それでも太平洋戦争史を語るうえでは無視できない存在であることは間違いない)

引用:
昭和14年4月、支那占領地の現地視察に出かけ北京、南京、青島、徐州等の各地を巡視。
「現地を見ての結論は一口にいうと「これは大変だ」ということであり、当時新聞記者の質問に対しても「要するに日本人は支那から引き揚げろという結論だ」と話した。
すなわち、南京では目抜きの場所は全部日本側で占拠しており、かつての蒋や汪の住んでいた家も全部接収しており、北京でもこれはと思う家は尽く取っており、開封では新都心計画の名の下に旧来の家を片端から壊しており、上海でも租界外におけるよい所は皆日本側で取っている。
上海で久留米出身の洋服商たる私の友人(石橋某)を訪ねると、彼は私に「自分は、上海に来て約30年、粒々辛苦の末今日やっとここまで築き上げて来たのだが、最近渡って来る人々は皆手ぶらで来てただで取っている。鈴木さん一体日本はこれでよいのでしょうか。」と聞かれた。このように、支那占領各地の実情は支那の民族運動に同情を持ってきた自分達の気持ちとは似ても似つかぬものになっていた。英米の支那でやったことよりも更に悪い。そして事ここに至ったのは単に軍のせいだけでなく日本民族全体の動きであり、その支柱をなすものは日本の財界でその下に一旗上げようとする中小企業者がついているせいであることもよくわかった。
私は帰京の上現地で見た実情をそのまま報告した。軍中央でも「実に困った」と口ではいうが、さればとて軍と結んで深入りしている財界の存在は、軍の統制を一層困難にし簡単には修正できない情況であった。しかも日本では聖戦完遂と呼ばれていた。」
(国立公文書館、平11法務06419100「鈴木貞一聴取書」、件名番号003、元陸軍中将、元企画院総裁鈴木貞一氏からの聴取書(第2回)、昭34.9.17)


おそらくこうした「聖戦の実態」は、各所で見られたことだろう。

敗戦後、「悪かったのは軍部だ」との言説が一気に浸透した。何もかもを軍部のせいにしてトカゲのシッポ切り、「私たち」は温存された。
以後、「私たち」と「軍部」は対立した存在とみなされ、「私たち」は「軍部の悪」をひたすら批判し続けることで暗に「身の潔白」を主張し続けた。
それは偽善だ。国民全体が「軍部にライドオン」していたのが実態だったと僕は思っているから。
「私たち」は、戦中から戦後へと、時代が移り変わっても、あまり変わっていない。
「軍部という旧体制」は駆逐されたからもう大丈夫、日本はあんな過ちを二度と繰り返さない、などとは思わない。
「私たち」に「軍部的なもの」が内在し続ける限り、歴史は繰り返されるかもしれない。
「軍部」を対立概念で捉え続ける限り、それは「ひとごと」であり、「けしからん」と断罪すれば済むとの都合のいい思い込みである。自分のこととして、内在する「軍部的なもの」に向き合い、泣きたくなるような気持ちで歴史に向き合わなければ、いつまた、悲惨な歴史がリフレインされるか、わかったもんじゃない。

というのが、僕の考えです。


ページトップ
 プロフィール  
 
期間内表示:  ソート  
新しいトピックを投稿する トピックへ返信する  [ 2 件の記事 ] 

All times are UTC + 9 hours


オンラインデータ

このフォーラムを閲覧中のユーザー: なし & ゲスト[1人]


トピック投稿: 不可
返信投稿: 不可
記事編集: 不可
記事削除: 不可
ファイル添付: 不可

検索:
ページ移動:  
cron
Powered by phpBB® Forum Software © phpBB Group
Japanese translation principally by ocean