frat.jpフォーラム

日本らしさとは、何だろう。
ちかごろ、そう考え込むことが、多くなった。

いま、日本人らしさとして挙げられる属性であっても、それが、日本人が古来から綿々と受け継いできたものだとは、限らない。
たとえば、財政社会学の井手英策・慶応大学教授は、「勤労」の用語が日本に定着したのは戦時期で、その概念は戦争の産物、とする（朝日新聞2015年11月26日朝刊17面オピニオン）。
だとすれば、僕ら日本人がもつ「勤労」という属性は、じつは、戦争によって、後天的に刷り込まれたものだということになり、つまり、もともと僕らは勤労的な人間じゃなかった。
現代日本の社会システムは「日本人＝勤労」をデフォルトに構築されていて、僕ら自身も生まれたときからきっとそう教え込まれているから、日々勤労ぶって生きてるけど、案外とそんなタチじゃなかった。
…ってことになる。
だから、日本人なんだから働き者で当たり前、怠け者な僕なんて日本人失格、とか、思わなくてもいいってことだ。

あ、勤労の話じゃなかった。日本らしさの話だった。

『雑草社会がつくる日本らしい自然』（根本正之、築地書館、2014年）によれば、日本のモンスーン的風土は、「雑草わけても夏草の天国」で、日本は雑草天国だという（p26）。
弥生時代以前から中世までは、雑草といっても、食糧や日用品、生薬として利用したものもかなりあって、桃の節句に食べるヨモギ餅や、食用としてのクズの根・ロープ代わりのクズの茎といった例をあげている。雑草は日々の生活必需品だったのだ（p30）。
江戸時代になると、食糧増産のために単位面積あたりの収量を増やそうと、草取りの重要性が訴えられるようになる（p31）。また、それまではたんに「草」といわれていたのが、江戸後期から明治初期にかけて、「雑草」ということばが使われるようになった。そうして、「草」は、役立つ草と、役立たずでじゃまな「雑草」に区別されるようになった（p32）。
「日本人が雑草を非常に嫌うようになったのは、集約的な農業が始まった江戸時代以降」（p33）であって、戦後に除草剤が普及するまで、農民は雑草取りの重労働で、夏草の繁り出す晩春から収穫の秋までの間、「朝に星をいだいて家を出、夕に月を見て家路につく」という生活だったという（p55）。
ということは、逆にいえば、雑草が雑草と言われ、忌み嫌われだしたのは、わりと最近のことで、それまでの日本人は、雑草のなかで、雑草とともに、ふつーに暮らしていた、ということになる。

以前、アメリカに旅行にいったとき、とある郊外の町で、道沿いに雑草がまるで生えていなくて驚いたことがある。気候が違うから、日本みたいにほっといたらウジャウジャ生えてくる、ということがそもそもない、ということもあるのだろうが、なんていうか、まるで雑草のない整然とした道路という景色が、向こうの人には当たり前なんだろうけど、僕には違和感があった。日本に帰ると、道端にはふつーに雑草が生えてるのをみて、ほっとした。

生産農家は別として、じぶんちの庭に畑をこしらえて野菜をつくっている場合、やたらと雑草を毛嫌いして、徹底的に草取りをしている人がいるんだけど（ぼくの実父とか）、そのスタイルに違和感があった。だってほっといたらじゃんじゃん生えてくるんだもん。不自然じゃないですか。除草剤のなかった昔の人はどうしてたんだろうなあと思ってたんですが、なんか納得。

うちの小さな庭は、雑草がわりと生えています。雑草が生えると、いろんな生き物が庭に住みついて、それが楽しい。雑草の茂みにはいろんな虫が住みつき、虫が住みつくと、それをエサにトカゲもうろちょろするし、スズメも何かをつつきにやってくる。可憐な花を咲かせたりもする。
いいことばかりじゃないけど、雑草の庭はけっこう好きです。ある程度、刈ったりはしてます。

あ、話を戻して、書評のまとめ的には、
日本人らしさ、を考えていくと、江戸時代よりも前の、ながーい時代に、日本人がどうしていたか、というのを知ることが、大事な気がしました。